2019年度人工知能学会全国大会 (33回)

JSAI2019日本物理学会・人工知能学会連携企画セッション  (2A5-KS-6)

物理学との対話2
―科学とAIの接点―

前口上

日本物理学会と人工知能学会は,合同企画の第一弾としてJSAI2018企画セッション「機械知能の理解にむけて --物理学との対話を通して--」を開催し大好評を博しました.その反響を受けて再び全国大会で合同企画の第二弾を実施します.お見逃しなく.

なお,日本物理学会誌では,人工知能学会-日本物理学会の共同企画として,「人工知能と物理学」のシリーズを掲載しており,こちらのページより, 会員以外の方も自由にお読みになれます.ぜひご覧ください.

JSAI2018企画セッションの様子



日時・開催場所

日時:2019年6月5日(水) 17:20 〜 19:00
場所:朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター A会場 (2F メインホールA)
住所:新潟県新潟市中央区万代島6番1号
アクセス:新潟駅から路線バス約15分、徒歩約20分

プログラム

1.挨拶:スライド 5分人工知能学会理事 矢入郁子
2.挨拶:スライド 5分日本物理学会理事 澤 博
3.講演1スライド15分日本物理学会副会長 勝本信吾
4.講演2スライド15分東京大学素粒子物理国際研究センター 田中純一
5.講演3スライド15分東京大学知の物理学研究センター 上田正仁
6.パネルディスカッション45分

モデレータ:矢入郁子

パネリスト:澤 博,勝本信吾,田中純一,上田正仁,浦本直彦,松尾 豊,山川 宏

講演およびパネルの概要

昨年のセッションでは,物理学の分野では深層学習をはじめとする近年の機械知能の進歩に対して,かつて蒸気機関が実用化された後に熱力学が成立したときのように新しい物理法則が生み出されるのではないかという期待があることを中心に,登壇者らの間で熱く議論がなされました.第二弾の今回はその期待についてさらに深堀するとともに,より具体的に,「物理の視点から自然現象を如何に理解するかという観点から,今後人工知能をどのように活用すべきか?」,「今まで物理学が十分に扱えなかった情報が人工知能によって詳らかになった時,物理学の行く末は?」,「実証主義である物理学の観点から見たとき,人工知能の予測をどう取り扱うべきか?」といった疑問について,物理学者,人工知能学者双方の意見を交わす予定です.物理学者と人工知能学者とのコラボレーション,学生の教育を含む人材育成のあり方についても話し合われます.

講演1:機械に物理を教わる日は来るか 勝本信吾

この講演では,表題の通りの物理屋の素朴な疑問を提示して,AIを本格的に物理学に応用しておられる後のお二人のご講演およびパネルディスカッションの前振りになるような話をし,AI学会の皆さんにぜひ教えを乞いたいと思っています.
前回(上のJSAI2018企画セッションの様子参照)の川村前会長の話は,「(1) AIは世界を理解しようとはしない」,「(2) 人がAIを通して世界を理解するようになるかもしれない」,「(3) 真のシンギュラリティは半永久的に起きない」で終わっていました.しかし,少なくともこの1年でも物理学の世界でも(2)に関しては大変な勢いで進んでおり,AIに跪いてでも物理を教わりたいような例が次々と現れています.
更に,物理学の原理主義,還元主義を根本から脅かしかねないのが最近のデータ駆動型,高次元科学と言われているものです.これが本当に科学を席巻してしまえば,物理などどうでも良い,という話になりかねないと危惧されます.これは,流石に限界があろうと思っていますが.
私の専門は,物性物理学という分野であり,物性研究所という部局に属しています.この研究所で生まれたAIの物理学への応用の最近の例を2件ほどご紹介し,何故上記のような疑問に悩んでいるのかご説明したいと思います.私の疑問をすっぱり解いてくださるような,快刀乱麻の議論を期待しています.

講演スライド

講演2:「素粒子物理実験」とAIの接点 田中純一

スイス・ジュネーブ郊外のCERN研究所で行われている国際共同実験ATLAS実験では 世界最高エネルギー13 TeVのLHC加速器を用いて、素粒子の標準理論では説明できない 新しい粒子や現象の発見を目指して実験を行っている。
実験データ(約3x1010事象)とMCデータを合わせて400 PBを超え、今後も増加する。 このようなビッグデータに対応すべく、我々、素粒子センターでは昨今ブームと なっている機械学習を取りいれて既存の手法と比較するもののなかなか成果が 上がっていないのが現状である。我々の実験を紹介し、 どのような問題に対してAIを導入し、どういう課題あるのか、を紹介したいと思います。
改善策やそもそもAIに向いていない(その場合はなぜかという理由がほしい)など 専門家の皆様に意見を伺いたいと思います。また、物理法則などを機械に学んでもらう ということはできないのか、ということも専門家に聞いてみたい内容のひとつです。

講演スライド

講演3:知の物理学研究センターが目指すもの 上田正仁

今や実験や計算機シミュレーションが大規模化・精密化し, それらが生む出す膨大なデータは人間が認識できる限界をはるかに超えています。通常は, 研究者が経験と勘に基づいて本質的な情報を抽出しますが, 膨大なデータの全体をAIで系統的に分析することで, 従来の方法では認識できなかった自然現象を発見できる可能性が生まれています。さらに, 繰り込み群,情報統計力学,臨界現象などの物理的手法を一般化することで深層学習が有効に働く原理を解明するなど, AIを格段と進化させることも狙います。本センターは、物理学とAIの融合を通じて、物理学の新たな研究のフロンティアを開拓し、AIを物理原理から構成することで格段と進化させることを目指しています。究極的には, 人間の知性が発現するメカニズムの数理的構造の解明に迫りたいと考えています。

講演スライド

登壇者紹介

  • 矢入郁子(上智大学)

    1994年東京大学工学部卒業.1996年同大学院工学系研究科修士課程,1999年同博士課程修了,博士(工学).同年,郵政省通信総合研究所(現:(国)情報通信研究機構)研究官,2008年より上智大学准教授.ユビキタス歩行者ITSの時空間情報処理や高齢者・障害者向けインタフェース,Future Internet,人間行動データ分析への深層学習応用,脳情報処理などの研究開発に従事.人工知能学会理事として広報と物理学会連携を担当.

  • 澤 博 (名古屋大学)

    名古屋大学工学研究科教授。専門は物性物理学実験。 1990年 青山学院大学 理工学研究科物理学専攻修了,理学博士。東京大学 物性研究所助手、千葉大学 理学部物理学科 助教授、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 助教授/教授を経て、2008年より 名古屋大学工学研究科 応用物理 教授 現在に至る。2015年より 日本物理学会庶務・会計理事.

  • 勝本信吾 (東京大学,物理学会副会長)

    東京大学物性研究所教授.理学博士.1983年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了.1983年NTT茨城電気通信研究所,1986年東京大学理学部助手,1993年東京大学物性研究所助教授を経て,2004年より現職.おもな研究分野は,低温物理学,量子物性.著書に『パリティブックス ポケットに電磁気を』(丸善),『メゾスコピック系』(朝倉書店),『量子の匠』(丸善出版),『半導体量子輸送物性』(培風館)などがある.

  • 田中純一 (東京大学)

    東京大学素粒子物理国際研究センター教授.博士(理学).2002年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了.東京大学素粒子物理国際研究センター研究機関研究員,助手(助教),准教授を経て,2018年より現職.おもな研究分野は素粒子物理学実験. CERNのLHC ATLAS実験で標準理論を越えた新しい物理の発見を目指し,2個目のヒッグス粒子や超対称性粒子等の探索,カロリメータ検出器の読み出し用の高速データ転送やエネルギー再構成アルゴリズム@FPGA等の研究開発, Deep LearningやQuantum Computingなどを素粒子実験分野に応用する研究を行っている.

  • 上田正仁 (東京大学)

    知の物理学研究センター教授.専門は冷却原子気体の理論的研究,および量子情報・測定・情報熱力学.1988年東京大学理学系研究科修士課程卒,博士(理学).NTT基礎研究所研究員,広島大学工学部助教授,東京工業大学教授等を経て,2008年より現職.著書に『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』,『現代量子物理学―基礎と応用』などがある.

  • 浦本直彦(三菱ケミカルホールディングス,人工知能学会会長)

    1990年九州大学総合理工学研究科情報システム学修了.博士(工学).同年日本IBM入社後,東京基礎研究所にて,機械翻訳,情報統合,XMLやWebサービス関連の研究開発に従事. 2015-2017年,同ソフトウエア&システム開発研究所にて,IBM Bluemix開発,Bluemix Garage TokyoでCTO.2017年6月より三菱ケミカルホールディングスに移り、AIやIoTによるデジタルトランスフォーメーションを推進中.著作に,XML and Java - Developing Web Applicationsなどがある.

  • 松尾 豊(東京大学)

    1997年東京大学工学部卒業,1999年同大学院修士課程修了,2002年同博士課程修了.博士(工学).産業技術総合研究所,スタンフォード大学を経て,2007年より,東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授, 2019年より同教授.元人工知能学会理事・元編集委員長・元倫理委員長.専門は,Web工学,Deep Learning,人工知能.著書およびマスコミへの出演多数.

  • 山川 宏(NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

    1987年3月東京理科大学理学部卒業.1992年東京大学で神経回路による強化学習モデル研究で工学博士取得.同年(株)富士通研究所入社後,概念学習,認知アーキテクチャ,教育ゲーム,将棋プロジェクト等の研究に従事.脳を参考として機械学習を統合した全脳アーキテクチャ・アプローチからの汎用人工知能の構築を目指している.前人工知能学会編集委員長・前理事.

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